伊弉諾 雫 作品集

散文詩・エッセイ・批評・考察・論評

全部ウソ

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疑り深い君が言う。


「全部だよ、全部欲しいんだよ」


黙ってその小さなカラダを引き寄せて、抱きしめた。



「うん、俺もだよ、同じだね」


そう答えながら、一つだけ、ウソをついた。




「君にサヨナラだけは言われたくない」




そんな、「全部」、の中に入ってる怯えだけは、


どうしても、言えない、言えなかった、あの日から…




「ぜーんぶ、ウソ」と笑い泣きして去る君をみて、




あのときの「全部」の中に、僕と同じものも入ってたのかな?


最後の「ウソ」もどこまでが「全部」だったのかな?




全部ウソ、って、もっと早く、言えたなら、もっとお互い、欲張りになれてたのかな?




君の背中越しに揺蕩う黄昏は、圧倒的な美しさで君を包み、


ただ、僕だけを疎外していた…


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変化

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進化しているのか、退化しているのか。


それは、私以外の誰かが決めてくれればいいの。


ただ、今日の私は昨日の私とはたぶん、違う。


いいことか、悪いことか、遥か先、心臓が止まる直前に、わかれば一番いいい。


気まぐれ、と、誰かが思っても、やっぱり、明日は、変わっていたいな。


私が私であるって信じて行き続けるためにも。


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メビウスの輪

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僕のこと、好き?
私のこと、嫌い?


で、始まった、「恋」


二人で一つになろうと歩いて、


僕のこと、嫌い?
私のこと、好き?


で、終わった、「愛」


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君に似ている

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大空を見上げて、青空を見つめて、その蒼さの中へ落ちてしまいそうだ
夜空を見上げて、星空を見つめて、その輝きからこぼれてしまいそうだ


人は勝手に、本当に勝手に、蒼さや輝きに意味や理由を持たせようとする


投影したそれらが心に響かなければ、無粋なモノとして断罪される


正確に、的確に。


時代が進むにつれて、より厳密にそういうものが測れるようにはなった


0と1の間の揺らぎも、そうやって埋められていくのは仕方のないことなのだろうか?


埋められていくのを拒めば、病という便利なコトバで処理される


大空を見上げて、青空を見つめて、その蒼さの中へ落ちてしまいたい
夜空を見上げて、星空を見つめて、その輝きからこぼれてしまいたい


悲しみに似た、柔らかな静寂に、一人、伝える術も持たず佇んでいる
悲しみに似た、柔らかな静寂は、肉体の中にある、形のない確かなものを、
そっとほぐしてくれる


空や星は、冷然と遙かなる時空を超えてなお、人には変わらないものと知覚される
それすらも、人が勝手に、本当に勝手に、自らの想像力の範囲内で納めるために、
決めつけただけのもの


「わからない」と素直に呟いた時に、瞳に映る見上げた空は、
変わり続ける、君に似ている


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