伊弉諾 雫 作品集

散文詩・エッセイ・批評・考察・論評

凍傷

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僕にはもう指がない。


絶対零度の氷の壁と


格闘しているうちに、ちぎれて失くした。


壁の向こうには君がいた。


指のない紫色の腕にむけて、


壁越しにそっと、手を重ねてくれた。




「モウ、ジュウブン、ヨ」


そう、微笑んでくれていた。


透明なガラス玉のようなその笑顔、


傍にいて守りたかった。




壁を壊せると思っていた。


向こう側へ行けると信じていた。


僕には君の求めているものが…


君には僕の探しているものが…




こんな壁など絆のもとに、


簡単に壊せると信じて疑いもしなかった。


そして、同じ夢を見ていた。


静かに寄り添い、指を絡めあいながら眠りにつく、


そんな夢を…。




でも、もう、


僕には指がない。


腕も思うように動かなくなってきた。


舌はまだ廻るようだけど、


口からこぼれるものは的外れなものばかり。


氷の壁の冷たさは、どんどん僕を侵食してゆく。




<キミヲ、ダキシメタカッタ>


僕の腕の中で、君を守りたかった。


二人の描いたささやかな夢は、


氷の壁の破片となって、


やがて脳をも紫色に変えてしまうのだろう。



カラダの自由が奪われてゆく度、


同じように還らぬ時が削げ落ちてゆく。


君はあの時の笑顔のままだろうか…?




<キミヲ、ダキシメタカッタ>


一度でいいから、


温もりに、触れたかった…


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